2012年4月3日火曜日

巣立ちビナ対応マニュアル(改)その1


ヒナを拾わないで!
え!なんで?と思われるでしょう。
でも読み進めれば納得、納得のマニュアルです。


「巣立ちビナ対応マニュアル」は佐々木勉さんの執筆、ケンタザウルスさんとイヅムCXさんの共同管理になっております。
このページはニィフティサーブの野鳥フォーラムに投稿されたものを、ご厚意により転載しております。


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巣立ちビナ対応マニュアル(改)その1

日本野鳥の会に勤められていた佐々木勉さんの執筆による『巣立ちビナ対応マニュアル』改訂版の転載許可が得られましたので、ここに掲載いたします。
なお、このマニュアルは日本野鳥の会の公式文書ではなく佐々木さんが個人の立場で書かれたものであること、また、オリジナルのマニュアルはワープロ印刷用のものだったため、私(イヅムCX)の責任でパソコン通信用に一部改変したことをあらかじめお断りしておきます。

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1995/06/12 初 版
1996/05/01 改訂版

「Q & A」形式

巣立ちビナ対応マニュアル

 Copyright Tsutomu Sasaki 1995


もし、巣立ちビナを見つけたら……

1.巣に戻してはいけない


2.親鳥を探す必要はない(探してはいけない)


3.絶対に、連れ去ってはいけない

巣立ちビナを保護したらどうすればよいか。そのための救急マニュアルは、いくつか自然保護団体から出版されている。しかし、どれもが、どうやって育てるかに重点を置いているため、かえって読者を巣立ちビナ探しに野山へ駆り立てる内容になっている。このマニュアルは初めて、巣立ちビナを救うことを目的として作成された。特に、「巣に戻してはいけない」「親鳥を探す必要はない」などは、まったく新しい視点からの対応法だ。

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Q.巣立ちビナを保護したが……

A.巣立ちビナを親鳥から切り離すのは、保護ではなく「誘拐」。すぐ元の発見場所に戻すこと。もし誰かが連れてきてしまったら、発見者に頼むか発見者から聞いて、巣立ちビナがなるべく早く元の場所に戻るようにすること。これ以外に助ける方法はない。親鳥は必死にわが子を探している。


Q.飛べない鳥を拾ったが、これは巣立ちビナか……
Q.飛べない鳥を拾ったが、これは病気・怪我か……

A.一般の人は「飛べないから、巣から落ちた」と早合点しがちだが、多くの巣立ちビナは飛べないのが普通だ。その鳥が、羽が生え揃っていて、「翔く」か「歩く」なら、巣立ち後のヒナ(巣立ちビナのこと)かそれ以上に成長していると思われる。また、「飛べないから、病気・怪我」と勘違いする人も多い。巣立ちビナは羽が生え揃っているのに飛べないため、病気や怪我をした鳥(成鳥)だと誤解されるわけだ。未成熟な巣立ちビナには、「産毛が残っている」「嘴の両端が黄色い」「尾羽が短い」など、ヒナの面影が残っている。飛べないからといって、怪我や病気だと早合点しないように。


巣立ちビナなら、すぐ元の場所に戻すこと。親鳥が必死にわが子を探している。


成長の度合い
 = 行動
 = 外見

成鳥・若鳥
 = 飛ぶ
 = 産毛はない、嘴の両端は黄色くない

巣立ちビナ
 = 翔く、歩く
 = 羽は生え揃っているが、産毛が残っている。嘴の両端が黄色い。尾羽が短い(親より)

巣立ち前のヒナ
 = あまり翔かない、あまり歩かない、歩くどころか立てない鳥も、まだ目が開いていない鳥も
 = 巣立ちビナに近い外見のものから、羽が生え揃わず産毛が多いもの、ほとんど赤子のものまで



Q.万一、巣立ち前のヒナだったら……

A.巣立ち前のヒナが誤って(台風などのためでなく)巣から落ちることは、非常に希。私はそのようなケースをほとんど知らないので、聞き取りによる推測だが、何百分の1以下の確率と思われる。しかし、この場合でも、羽が生え揃っていれば巣に戻す必要はない(結果的に巣立ちになってしまう)と思われるし、自然に起きたことに人間が手を出すべきではないと思う。
ただし、人為によって巣立ち前のヒナが巣から落とされた場合は、巣に戻す必要がある。この場合は暗くなるのを待って、静かに巣に戻す。昼間明るいうちに巣に戻そうとすると、他の兄弟ビナたちが驚いて巣から飛び出して落下し、殺してしまうことがあるからだ。なお、赤子や羽毛が生え揃っていないヒナは、「そのヒナの命を見限って、親が捨てた」という説もある。


Q.どんな食べ物を与えたらよいか……

A.いきなりこう聞いてくる人が多いが、その鳥に何を食べさせたらよいか知っているのは、その鳥の親だけ。一般の人が不適切なものを無理矢理食べさせると、それだけで殺してしまうことが多い。とにかく、すぐ元の発見場所に戻す以外に助ける方法はない。親鳥は必死にわが子を探している。


Q.猫がいる……

A.鳥はそのままに、その猫をとことん追いかけ回す。そうしているうちにきっと、親鳥がわが子を安全なところに連れて行くはず。


Q.車にひかれそう、U字溝に落ちている…

A.車道にいる場合は、道から離れたなるべく人目につかない場所に移動させる。その際、人間が触って臭いがついても問題ない。U字溝などから出られないでいる場合も、同様に対応する。


Q.目立つ場所にいたら……

A.再び人間に見つからないよう、人目につかない場所に移動させる。


Q.巣立ちビナを移動させたら、親鳥とはぐれてしまわないか……
Q.正確な元の場所がわからないので、その辺りにしか戻せない……

A.親鳥と巣立ちビナは互いに鳴き声で連絡がとれるので、鳴き声が届く範囲ならあまり問題ない。実際には、親鳥は鳴き声を発しながら飛び回ってわが子を探すので、かなり広い範囲(数十~数百メートル位)でも大丈夫だろう。


Q.親鳥の姿が見えないが……

A.小鳥類や猛禽類など大部分の野鳥の親鳥は、巣立ちビナの食べ物を探しに行っているため、巣立ちビナのそばにはいないことが多い。巣立ちビナは、食料を探して忙しく動きまわる親鳥から離れて、安全な場所でじっと待っているわけだ。特にキジバトなどでは、巣立ち直後のヒナには朝夕1回ずつ位しか食べ物を与えないので、その時期には親鳥が巣立ちビナと一緒にいることはほとんどなく、巣立ちビナは終日枝に止まっていることが多い。これは外敵から身を守る、彼らの知恵とも言える。したがって、「一羽でいても迷子ではない」。親鳥を探す必要はない。


Q.本当に親鳥を探す必要はないのか……

A.巣立ちビナの親を探す必要はない。かえって人間がいると、戻ってきた親鳥が(人間を)怖がってわが子に近づけないので、すぐにその場を立ち去るべき。その場にとどまって、親鳥を探していたり待っていてはいけない。 また、親鳥の姿が近くに見えなくても、必ず親鳥はどこかから巣立ちビナを見守っているという説があるが、これは、巣立ちビナを人間に誘拐させないための方便と考えたい。


Q.巣の中にヒナがいるのに、親鳥の姿が見えないが……

A.親鳥はヒナの食べ物を探しに巣の外に出るので、巣にはヒナだけでいることがある。特に、ヒナの羽毛がある程度生え揃って自分で体温調整ができるようになると(小鳥類で卵からかえってだいたい1週間後位)、親鳥がヒナの保温のために巣にとどまる必要がなくなる上、ヒナの食欲が増大するので、親鳥はヒナの食べ物集めに忙しく、ヒナに食事を与えるとき以外は姿を見せないことが多い。特にキジバトなどでは巣立ちビナに対してだけでなく、まだ巣の中にいるヒナに対しても朝夕1回ずつ位しか食事を与えないので、親鳥の姿を巣で見かけることはあまりない。いずれにしろ人間がいると、戻ってきた親鳥が(人間を)怖がって巣に近づけないので、すぐにその場を立ち去るべき。巣のそばにとどまって、親鳥を待っていてはいけない。また、すべての野鳥が雌親と雄親とで協力して子育てにあたるわけではないことも、付け加えておく。


Q.巣が見つからないが……

A.巣が見つからないことを理由に、巣立ちビナを保護(実は誘拐)する人が多い。しかし、小鳥類など一般の人が出会う範囲の巣立ちビナは、一度巣立ったら二度と巣に戻らないので、巣を見つける必要はない。巣立ちは、成長する途中段階でヒナが巣の外に出ること。親からの自立ではない。多くの野鳥にとって巣とは、卵を産んでヒナをかえし、ある時期(巣立ち)まで育てるためのもの。一度巣立ったヒナが巣に戻ることはなく、そのヒナにとって巣はもはや何の役にも立たない。巣立ちビナを巣に戻す必要はないし、そのために巣を探す必要もない。


Q.巣立ちビナを巣に戻してはいけない理由があるのか……

A.巣に戻すと、再び飛べない状態で巣から跳び降りなければならず、極めて危険。多くのヒナにとって巣立ちは、精神的プレッシャーと肉体的危険が伴う命がけの行為なので、もう一度させるのは絶対に避けるべき。同様に、あまり高い枝に止まらせるのもよくない。また、その巣立ちビナを巣に戻すときに他の巣立ち前のヒナがびっくりして落ちてしまい、死んでしまうことがある。


Q.ツバメの巣が落ちた……

A.壁に巣をかけるツバメの場合、まだ巣立ち前のヒナがいるのに巣が落ちてしまうことがある。適当な棚を作り、その上に巣を戻せればよいが、棚を作るのが大変だったり、落ちた巣自体が壊れてしまっていることもある。そこで、代用品で対応する。巣の代用品として適当なのは、ザル、お弁当用のバスケット、プラスチック製の容器、クッキーの平たい缶など。ただし、あまり深いものは避ける。これを、針金などを使って吊るす。この際、必ずしも壁に密着させる必要はないし、元の巣の場所から多少離しても心配ない。要は、安全な場所に吊るすこと。この方法は、ツバメの調査をしている友人の一級建築士T氏より聞いたもので、最も簡単で確実だと思われる。


Q.巣の真下にヒナが落ちていた。羽は生え揃っているが、これも巣立ちビナか……

A.多くの巣立ちビナの場合、よく飛べない状態で巣から降りる。これは、落ちるという表現の方が当たっているようなものも多い。うまく枝づたいに巣の近くから離れられればいいが、そういかないときもあるし、もともとボタッと落ちるように巣立つ鳥(例えばモズやフクロウやオシドリなど)もいる。いずれにしろ、巣立ちは本人(本鳥?)の意志だから、「落ちた」ではなく「降りた(=巣立った)」になる。巣の真下に巣立ちビナがいるケースは、少なくない。


Q.本当に巣立ちビナは飛べないのか。テレビで巣立ちの瞬間を見たら、ちゃんと飛んでいたが……

A.巣立ち時にある程度飛べるものがいることは確か。また、テレビではよく飛べたものだけ選んで、あるいは飛んでいるように見える場面だけ編集して、放送しているフシがある。しかし、ある程度飛べる巣立ちビナは、人間に捕まらないのでなんら問題ない。一般の人の目に触れ、そして捕まってしまうのは飛べない巣立ちビナばかりなので、私は「巣立ちビナはうまく飛べない」と言っている。一般の人が、飛べないから怪我・病気と早合点して保護(実は誘拐)しようとするのを、多くの巣立ちビナは飛べないのが普通だよ、飛べなくても心配ないよと言って、人間から巣立ちビナを守ろうという意図だ。また、巣立ちビナは持久力があまりないので、たとえある程度飛べるものであっても疲れて休んでいることがある。このようなケースは比較的多い。また警戒心が薄いために、せっかくの飛翔力を持ちながら、それを使って逃げようとしないこともある。


Q.ヒナが巣から落ちることは希なのか……

A.一般の人は、「飛べないから巣から落ちた」と早合点しがちだが、実際にヒナが巣から落ちることは希だ。私は野外で、数千羽以上の巣立ちビナと出会ってきたが、巣から落ちたと思われるヒナは、台風通過後のスズメの丸裸のヒナ以外見たことがない。友人の野鳥カメラマンN氏も、スズメとツバメのヒナ以外で、巣から落ちたヒナは見たことがないと言っている。つまり、一般の人が巣から落ちたと思ったヒナのほとんどは、「自らの意志で巣から降りた巣立ちビナ」ということになるのでは。また、フクロウ類の巣立ち直後のヒナはまったく飛べない上、翼がかなり小さいこととまだ白っぽい羽毛に覆われているためか、巣から落ちたと勘違いされることがとても多い。しかし、多くの場合樹洞で育つ彼らが誤って樹洞をよじ登り、誤って自分より上にある出入口から外に落ちることは、まず起こりえないだろう。また、地面上で営巣する鳥の場合、そもそも巣から落ちること自体ありえない。


その2へ続きます